宗教法人アカウンタント通信No.171


〇多文化共生社会と土葬墓地問題


〇多文化共生社会と土葬墓地問題

ご存じのように、我が国の火葬率はきわめて高く、99%を超えると言われています。

ところが近年、火葬を望まない人の割合が増えてきています。言うまでもなく、イスラム教の信者の方、イスラム教の国家から来られた方たちです。

イスラム教徒は死後、神の審判が下る日の復活を信じ、火葬を忌避しますので、土葬を希望します。ところが国内において土葬墓地はきわめて少なく、新規にイスラム教徒の土葬を受け入れている墓所は全国で10か所程度。日本で長年暮らし、終末期を迎えつつあるイスラム教徒の方々にとって、「入るべきお墓がない」という現実は深刻な問題となっています。

我が国に土地がないわけではありません。大分県のある地域では、在日20年超のパキスタン人の大学教授(50代)が会長を務めるイスラム教徒の団体が山間の土地を自治体から購入し、自分や仲間が安心して眠れる土葬墓地を造成しようと考えました。それまで九州にはイスラム教徒を受け入れる土葬墓地がなく、知人たちは遺体を母国に空輸したり、車で関西圏や関東圏に運んだりしていたそうです。

自治体の条例で定められた条件もクリアしたのですが、そこで3キロほど離れた集落の人々から難色が示されました。農業や畜産が盛んなその集落の人々の意見は「水質汚染や風評被害により自分たちの産業や生活に影響が出てからでは遅い」というもので、イスラムの団体も「墓地の周りをコンクリートで囲う」「万が一何か問題が起きたらすぐに埋葬をやめる」などの対応を提案したのですが溝は埋まらず、昨年10月には町長選の争点にまでなり、結果的に「土葬墓地反対派」の町長が当選しました。新町長はイスラム団体側への土地売却の方針を取りやめ、同時に国に対して土葬墓地を作るよう働きかけていく意向も明らかにしたとのことです。

この問題は今後否応なしに我々が直面する、多文化共生社会における「埋葬」という儀礼に関する重要な問題提起をはらんでいます。宗教や文化のバックグラウンドの異なる人々を単に「郷に入っては郷に従え」と突き放すだけでなく、丁寧に話し合いを重ねて合意点を見出していく、そんな心構えが求められるのではと感じます。

筆者の寺が所在している地域でも外国人の方の姿が多く見られますが、黙々と土木系の作業等に従事しています。彼らがいなければこの国の建築業は衰退していくことは明らかです。日頃の挨拶などからコミュニケーションを少しずつ深め、お互いに理解を深めていければと考えます。


(宗教法人アカウンタント養成講座 講師 高橋 泰源)